1882 Imperial Rescript to Soldiers and Sailors/軍人勅諭

Imperial Rescript to Soldiers and Sailors, 1882

Soldiers and Sailors, We are your supreme Commander-in-Chief. Our relations with your will be most intimate when We rely upon you as Our limbs and you look up to Us as your head. Whether We are able to guard the Empire, and so prove Ourself worthy of Heaven’s blessings and repay the benevolence of Our Ancestors, depends upon the faithful discharge of your duties as soldiers and sailors. If the majesty and power of Our Empire be impaired, do you share with Us the sorrow; if the glory of Our arms shine resplendent, We will share with you the honor. If you all do your duty, and being one with Us in spirit do your utmost for the protection of the state, Our people will long enjoy the blessings of peace, and the might and dignity of Our Empire will shine in the world. As We thus expect much of you, Soldiers and Sailors, We give you the following precepts:

I. The soldier and sailor should consider loyalty their essential duty. Who that is born in this land can be wanting in the spirit of grateful service to it? No soldier or sailor, especially, can be considered efficient unless this spirit be strong within him. A soldier or a sailor in whom this spirit is not strong, however skilled in art or proficient in science, is a mere puppet; and a body of soldiers or sailors wanting in loyalty, however well ordered and disciplined it may be, is in an emergency no better than a rabble. Remember that, as the protection of the state and the maintenance of its power depend upon the strength of its arms, the growth or decline of this strength must affect the nation’s destiny for good or for evil; therefore neither be led astray by current opinions nor meddle in politics, but with single heart fulfill your essential duty of loyalty, and bear in mind that duty is weightier than a mountain, while death is lighter than a feather. Never by failing in moral principle fall into disgrace an bring dishonor upon your name.

The second article concerns the respect due to superiors and considerations to be shown inferiors.

3. The soldier and the sailor should esteem valor …. To be incited by mere impetuosity to violent action cannot be called true valor. The soldier and the sailor should have sound discrimination of right and wrong, cultivate self-possession, and form their plans with deliberation. Never to despise an inferior enemy or fear a superior, but to do one’s duty as soldier or sailor—this is true valor. Those who thus appreciate true valor should in their daily intercourse set gentleness first and aim to win the love and esteem of others. If you affect valor and act with violence, the world will in the end detest you and look upon you as wild beasts. Of this you should take heed.
4. The soldier and the sailor should highly value faithfulness and righteousness.…Faithfulness implies the keeping of one’s word, and righteousness the fulfillment of one’s duty. If then you wish to be faithful and righteous in any thing, your must carefully consider at the outset whether you can accomplish it or not. If you thoughtlessly agree to do something that is vague in its nature and bind yourself to unwise obligations, and then try to prove yourself faithful and righteous, your may find yourself in great straits from which there is no escape….Ever since ancient times there have been repeated instances of great men and heroes who, overwhelmed by misfortune, have perished and left a tarnished name to posterity, simply because in their effort to be faithful in small matters they failed to discern right and wrong with reference to fundamental principles, or because, losing sight of the true path of public duty, they kept faith in private relations. You should, then, take serious warning by these examples.
5. The soldier and sailor should make simplicity their aim. If you do not make simplicity your aim, you will become effeminate and frivolous and acquire fondness for luxurious and extravagant ways; you will finally grow selfish and sordid and sink to the last degree of baseness, so that neither loyalty nor valor will avail to save you from the contempt of the world.

These five articles should not be disregarded even for a moment by soldiers and sailors. Now for putting them into practice, the all important thing is sincerity. These five articles are the soul of Our soldiers and sailors, and sincerity is the soul of these articles. If the heart be not sincere, words and deeds, however good, are all mere outward show and can avail nothing. If only the heart be sincere, anything can be accomplished. Moreover these five articles are the “Grand Way” of Heaven and earth and the universal law of humanity, easy to observe and to practice. If you, Soldiers and Sailors, in obedience to Our instruction, will observe and practice these principles and fulfil your duty of grateful service to the country, it will be a source of joy, not to Ourself alone, but to all the people of Japan.

а.jpg
 
軍人勅諭​

我が国の軍隊は代々天皇が統率している。昔、神武天皇みずから大伴氏(古代の豪族)や物部氏(古代の豪族)の兵を率い、中国(当時の大和地方)に住む服従しない者共を征伐し、天皇の位について全国の政治をつかさどるようになってから二千五百年あまりの時が経った。この間、世の中の有様が移り変わるのに従い、軍隊の制度の移り変わりもまた、たびたびであった。古くは天皇みずから軍隊を率いる定めがあり、時には皇后(天皇の妻)や皇太子(次の天皇になる皇子)が代わったこともあったが、およそ兵の指揮権を臣下(天皇に仕える臣)に委ねたことはなかった。中世(鎌倉、室町時代)になり、文官と武官の制度をみな支那風に倣って六衛府(左近衛、右近衛、左衛門、右衛門、左兵衛、右兵衛という軍務をつかさどる六つの役所)を置き、左右馬寮(左馬寮、右馬寮という軍馬をつかさどる二つの役所)を建て、防人(九州の壱岐、対馬などに配置された兵。外国の侵略に備える)などを設けたので軍隊の制度は整ったが、長く平和な世の中が続いたことに慣れて朝廷の政務(政治をおこなううえでのさまざまな仕事)も武を軽んじ文を重んじるように流れていき、兵士と農民はおのずから二つに別れ、昔の徴兵制(徴集されて兵隊になること)はいつの間にか廃れて志願制(自分の意志で兵隊になること)に変わり、遂に武士を生み出し、軍隊の指揮権はすっかりその武士の頭である将軍のものになり、世の中が乱れていくのと共に政治の権力もその手に落ち、およそ七百年の間、武家(武士)の政治がおこなわれた。世の中の有様が移り変わってこのようになったのは、人の力をもって引き返せないと言いながら、一方では我が国体(国家のあり方)に背き、一方では我が祖宗(神武天皇)の掟に背く浅ましい次第であった。
 時は流れて弘化、嘉永の頃(江戸時代末期)より、徳川幕府の政治が衰え、その上、外国の事(米国をはじめとする欧米列強が通商を求めて日本を圧迫)が起こって侮辱を受けそうな事態になり、朕(天皇の自称)の皇祖(天皇の祖父)仁孝天皇、皇孝(天皇の父)孝明天皇が非常に心配されたのは勿体なくもまた畏れ多いことである。さて、朕が幼い頃に天皇の位を継承したはじめに、征夷大将軍(幕府の長)はその政権を返上し、大名、小名が領地と人民を返し、年月が経たないうちに日本はひとつに治まる世の中になり、昔の制度に立ち返った。これは文官と武官との良い補佐をする忠義の臣下があって、朕を助けてくれた功績である。歴代の天皇がひたすら人民を愛し後世に残した恩恵といえども、しかしながら我が臣民のその心に正しいことと間違っていることの道理をわきまえ、大義(天皇の国家に対する忠義)の重さを知っているからである。だから、この時において軍隊の制度を改め、我が国の光りを輝かそうと思い、この十五年の間に、陸軍と海軍の制度を今のようにつくり定めることにした。そもそも軍隊を指揮する大きな権力は朕が統括するところなのだから、その様々な役目を臣下に任せはするが、そのおおもとは朕みずからこれを執り、あえて臣下に委ねるべきものではない。代々の子孫に至るまで深くこの旨を伝え、天皇は政治と軍事の大きな権力を掌握するものである道理を後の世に残して、再び中世以降のような誤りがないように望むのである。朕はお前たち軍人の総大将である。だから、朕はお前たちを手足のように信頼する臣下と頼み、お前たちは朕を頭首と仰ぎ、その親しみは特に深くなることであろう。朕が、国家を保護して、天道様(おてんとう様)の恵みに応じ、代々の天皇の恩に報いることが出来るのも出来ないのも、お前たち軍人がその職務を尽くすか尽くさないかにかかっている。
 我が国の稜威(日本国の威光)が振るわないことがあれば、お前たちはよく朕とその憂いを共にしなさい。我が国の武勇が盛んになり、その誉れが輝けば、朕はお前たちとその名誉を共にするだろう。お前たちは皆その職務を守り、朕と一心になって、力を国家の保護に尽くせば、我が国の人民は永く平和の幸福を受け、我が国の優れた威光(人を従わせる威厳)は大いに世界の輝きともなるだろう。朕はこのように深くお前たち軍人に望むのであるから、なお教えさとすべきことがある。どれ、これを左に述べよう。
 一、軍人は忠節を尽くすことを義務としなければならない。およそ生を我が国に受けた者は、誰でも国に報いる心がなければならない。まして軍人ともあろう者は、この心が固くなくては物の役に立つことが出来るとは思われない。軍人でありながら国に報いる心が堅固でないのは、どれほど技や芸がうまく、学問の技術に優れていても、やはり人形に等しいだろう。その隊列(兵隊の列)も整い、規律も正しくとも、忠節を知らない軍隊は、ことに臨んだ時、烏合の衆(烏の群れのように規律も統率もない寄せ集め)と同じになるだろう。
 そもそも、国家を保護し国家の権力を維持するのは兵力にあるのだから、兵力の勢いが弱くなったり強くなったりするのはまた国家の運命が盛んになったり衰えたりすることをわきまえ、世論に惑わず、政治に関わらず、ただただ一途に軍人として自分の義務である忠節を守り、義(天皇の国家に対して尽くす道)は険しい山よりも重く、死はおおとりの羽よりも軽いと覚悟しなさい。その節操を破って、思いもしない失敗を招き、汚名を受けることがあってはならない。
 一、軍人は礼儀を正しくしなければならない。およそ軍人には、上は元帥から下は一兵卒に至るまで、その間に官職(官は職務の一般的種類、職は担当すべき職務の具体的範囲)の階級があって、統制のもとに属しているばかりでなく、同じ地位にいる同輩であっても、兵役の年限が異なるから、新任の者は旧任の者に服従しなければならない。下級の者が上官の命令を承ることは、実は直ちに朕が命令を承ることと心得なさい。自分がつき従っている上官でなくても、上級の者は勿論、軍歴が自分より古い者に対しては、すべて敬い礼を尽くしなさい。
 また、上級の者は、下級の者に向かって、少しも軽んじて侮ったり、驕り高ぶったりする振る舞いがあってはならない。おおやけの務めのために威厳を保たなければならない時は特別であるけれども、そのほかは務めて親切に取り扱い、慈しみ可愛がることを第一と心がけ、上級者も下級者も一致して天皇の事業のために心と体を労して職務に励まなければならない。
 もし軍人でありながら、礼儀を守らず、上級者を敬わず、下級者に情けをかけず、お互いに心を合わせて仲良くしなかったならば、単に軍隊の害悪になるばかりでなく、国家のためにも許すことが出来ない罪人であるに違いない。
 一、軍人は武勇を重んじなければならない。そもそも、武勇は我が国においては昔から重んじたのであるから、我が国の臣民ともあろう者は、武勇の徳を備えていなければならない。まして軍人は、戦いに臨み敵にあたることが職務であるから、片時も武勇を忘れてはならない。
 そうではあるが、武勇には大勇(真の勇気)と小勇(小事にはやる、つまらない勇気)があって、同じではない。血気にはやり、粗暴な振る舞いなどをするのは、武勇とはいえない。軍人ともあろう者は、いつもよく正しい道理をわきまえ、よく胆力(肝っ玉)を練り、思慮を尽くしてことをなさなければならない。小敵であっても侮らず、大敵であっても恐れず、軍人としての自分の職務を果たすのが、誠の大勇である。
 そうであるから、武勇を重んじる者は、いつも人と交際するには、温厚であることを第一とし、世の中の人々に愛され敬われるように心掛けなさい。理由のない勇気を好んで、威勢を振り回したならば、遂には世の中の人々が嫌がって避け、山犬や狼のように思うであろう。心すべきことである。
 一、軍人は信義を重んじなければならない。およそ信義を守ることは一般の道徳ではあるが、とりわけ軍人は信義がなくては一日でも兵士の仲間の中に入っていることは難しいだろう。
 信とは自分が言ったことを実行し、義とは自分の務めを尽くすことをいうのである。だから、信義を尽くそうと思うならば、はじめよりそのことを出来るかどうか細かいところまで考えなければならない。出来るか出来ないかはっきりしないことをうっかり承知して、つまらない関係を結び、後になって信義を立てようとすれば、途方に暮れ、身の置きどころに苦しむことがある。悔いても手遅れである。はじめによくよく正しいか正しくないかをわきまえ、善し悪しを考え、その約束は結局無理だと分かり、その義理はとても守れないと悟ったら、速やかに約束を思いとどまるがよい。
 昔から、些細な事柄についての義理を立てようとして正しいことと正しくないことの根本を誤ったり、古今東西に通じる善し悪しの判断を間違って自分本位の感情で信義を守ったりして、惜しい英雄豪傑どもが、災難に遭い、身を滅ぼし、死んでからも汚名を後の世までのこしたことは、その例が少なくないのである。深く戒めなければならない。
 一、軍人は質素を第一としなければならない。およそ質素を第一としなければ、武を軽んじ文を重んじるように流れ、軽薄になり、贅沢で派手な風を好み、遂には欲が深く意地汚くなって、こころざしもひどくいやしくなり、節操も武勇もその甲斐なく、世の人々から爪弾きされるまでになるだろう。その人にとって生涯の不幸であることはいうまでもない。
 この悪い気風がひとたび軍人の間に起こったら、あの伝染病のように蔓延し、軍人らしい規律も兵士の意気も急に衰えてしまうことは明らかである。朕は深くこれを恐れて、先に免黜条例(官職を辞めさせることについての条例)を出し、ほぼこのことを戒めて置いたけれども、なおもその悪習が出ることを心配して心が休まらないから、わざわざまたこれを戒めるのである。お前たち軍人は、けっしてこの戒めをおろそかに思ってはならない。
 右の五ヶ条は、軍人ともあろう者はしばらくの間もおろそかにしてはならない。
 さてこれを実行するには、ひとつの偽りのない心こそ大切である。そもそも、この五ヶ条は、我が軍人の精神であって、ひとつの偽りのない心はまた五ヶ条の精神である。心に誠がなければ、どのような戒めの言葉も、よいおこないも、みな上っ面の飾りに過ぎず、何の役にも立たない。心にさえ誠があれば、何事も成るものである。まして、この五ヶ条は、天下おおやけの道理、人として守るべき変わらない道である。おこないやすく守りやすい。
 お前たち軍人は、よく朕の戒めに従って、この道を守りおこない、国に報いる務めを尽くせば、日本国の人民はこぞってこれを喜ぶだろう。朕ひとりの喜びにとどまらないのである。

明治十五年一月四日

御名 御璽


■原文

我国の軍隊は世々天皇の統率し給ふ所にそある昔神武天皇躬つから大伴物部の兵ともを率ゐ中国のまつろはぬものともを討ち平け給ひ高御座に即かせられて天下しろしめし給ひしより二千五百有余年を経ぬ此間世の様の移り換るに随ひて兵制の沿革も亦屢なりき古は天皇躬つから軍隊を率ゐ給ふ御制にて時ありては皇后皇太子の代らせ給ふこともありつれと大凡兵権を臣下に委ね給ふことはなかりき中世に至りて文武の制度皆唐国風に傚はせ給ひ六衛府を置き左右馬寮を建て防人なと設けられしかは兵制は整ひたれとも打続ける昇平に狃れて朝廷の政務も漸文弱に流れけれは兵農おのつから二に分れ古の徴兵はいつとなく壮兵の姿に変り遂に武士となり兵馬の権は一向に其武士ともの棟梁たる者に帰し世の乱と共に政治の大権も亦其手に落ち凡七百年の間武家の政治とはなりぬ世の様の移り換りて斯なれるは人力もて挽回すへきにあらすとはいひなから且は我国体に戻り且は我祖宗の御制に背き奉り浅間しき次第なりき降りて弘化嘉永の頃より徳川の幕府其政衰へ剰外国の事とも起りて其侮をも受けぬへき勢に迫りけれは朕か皇祖仁孝天皇皇考孝明天皇いたく宸襟を悩し給ひしこそ忝くも又惶けれ然るに朕幼くして天津日嗣を受けし初征夷大将軍其政権を返上し大名小名其版籍を奉還し年を経すして海内一統の世となり古の制度に復しぬ是文武の忠臣良弼ありて朕を輔翼せる功績なり歴世祖宗の専蒼生を憐み給ひし御遺沢なりといへとも併我臣民の其心に順逆の理を弁へ大義の重きを知れるか故にこそあれされは此時に於て兵制を更め我国の光を耀さんと思ひ此の十五年か程に陸海軍の制をは今の様に建定めぬ夫兵馬の大権は朕か統ふる所なれは其司々をこそ臣下には任すなれ其大綱は朕親之を攬り肯て臣下に委ぬへきものにあらす子々孫々に至るまて篤く斯旨を伝へ天子は文武の大権を掌握するの義を存して再中世以降の如き失体なからんことを望むなり朕は汝等軍人の大元帥なるそされは朕は汝等を股肱と頼み汝等は朕を頭首と仰きてそ其親は特に深かるへき朕か国家を保護して上天の恵に応し祖宗の恩に報いまゐらする事を得るも得さるも汝等軍人か其職を尽すと尽さゝるとに由るそかし我国の稜威振はさることあらは汝等能く朕と其憂を共にせよ我武維揚りて其栄を耀さは朕汝等と其誉を偕にすへし汝等皆其職を守り朕と一心になりて力を国家の保護に尽さは我国の蒼生は永く太平の福を受け我国の威烈は大に世界の光華ともなりぬへし朕斯も深く汝等軍人に望むなれは猶訓諭すへき事こそあれいてや之を左に述へむ
一軍人は忠節を尽すを本分とすへし凡生を我国に禀くるもの誰かは国に報ゆるの心なかるへき況して軍人たらん者は此心の固からては物の用に立ち得へしとも思はれす軍人にして報国の心堅固ならさるは如何程技芸に熟し学術に長するも猶偶人にひとしかるへし其隊伍も整ひ節制も正しくとも忠節を存せさる軍隊は事に臨みて烏合の衆に同かるへし抑国家を保護し国権を維持するは兵力に在れは兵力の消長は是国運の盛衰なることを弁へ世論に惑はす政治に拘らす只々一途に己か本分の忠節を守り義は山嶽よりも重く死は鴻毛よりも軽しと覚悟せよ其操を破りて不覚を取り汚名を受くるなかれ
一軍人は礼儀を正くすへし凡軍人には上元帥より下一卒に至るまで其間に官職の階級ありて統属するのみならす同列同級とても停年に新旧あれは新任の者は旧任のものに服従すへきものそ下級のものは上官の命を承ること実は直に朕か命を承る義なりと心得よ己か隷属する所にあらすとも上級の者は勿論停年の己より旧きものに対しては総へて敬礼を尽すへし又上級の者は下級のものに向ひ聊も軽侮驕傲の振舞あるへからす公務の為に威厳を主とする時は格別なれとも其外は務めて懇に取扱ひ慈愛を専一と心掛け上下一致して王事に勤労せよ若軍人たるものにして礼儀を紊り上を敬はす下を恵ますして一致の和諧を失ひたらんには啻に軍隊の蠧毒たるのみかは国家の為にもゆるし難き罪人なるへし
一軍人は武勇を尚ふへし夫武勇は我国にては古よりいとも貴へる所なれは我国の臣民たらんもの武勇なくては叶ふまし況して軍人は戦に臨み敵に当るの職なれは片時も武勇を忘れてよかるへきかさはあれ武勇には大勇あり小勇ありて同からす血気にはやり粗暴の振舞なとせんは武勇とは謂ひ難し軍人たらむものは常に能く義理を弁へ能く胆力を練り思慮を殫して事を謀るへし小敵たりとも侮らす大敵たりとも懼れす己が武職を尽さむこそ誠の大勇にはあれされは武勇を尚ふものは常々人に接るには温和を第一とし諸人の愛敬を得むと心掛けよ由なき勇を好みて猛威を振ひたらは果は世人も忌嫌ひて犲狼なとの如く思ひなむ心すへきことにこそ
一軍人は信義を重んすへし凡信義を守ること常の道にはあれとわきて軍人は信義なくては一日も隊伍の中に交りてあらんこと難かるへし信とは己か言を践行ひ義とは己か分を尽すをいふなりされは信義を尽さむと思はゝ始より其事の成し得へきか得へからさるかを審に思考すへし朧気なる事を仮初に諾ひてよしなき関係を結ひ後に至りて信義を立てんとすれは進退谷りて身の措き所に苦むことあり悔ゆとも其詮なし始に能々事の順逆を弁へ理非を考へ其言は所詮践むへからすと知り其義はとても守るへからすと悟りなは速に止るこそよけれ古より或は小節の信義を立てんとて大綱の順逆を誤り或は公道の理非に踏迷ひて私情の信義を守りあたら英雄豪傑ともか禍に遭ひ身を滅し屍の上の汚名を後世まで遺せること其例尠からぬものを深く警めてやはあるへき
一軍人は質素を旨とすへし凡質素を旨とせされは文弱に流れ軽薄に趨り驕奢華靡の風を好み遂には貪汚に陥りて志も無下に賤くなり節操も武勇も其甲斐なく世人に爪はしきせらるゝ迄に至りぬへし其身生涯の不幸なりといふも中々愚なり此風一たひ軍人の間に起りては彼の伝染病の如く蔓延し士風も兵気も頓に衰へぬへきこと明なり朕深く之を懼れて曩に免黜条例を施行し略此事を誡め置きつれと猶も其悪習の出んことを憂ひて心安からねは故に又之を訓ふるそかし汝等軍人ゆめ此訓誡を等閒にな思ひそ
右の五ヶ条は軍人たらんもの暫も忽にすへからすさて之を行はんには一の誠心こそ大切なれ抑此五ヶ条は我軍人の精神にして一の誠心は又五ヶ条の精神なり心誠ならされは如何なる嘉言も善行も皆うはへの装飾にて何の用にかは立つへき心たに誠あれは何事も成るものそかし況してや此五ヶ条は天地の公道人倫の常経なり行ひ易く守り易し汝等軍人能く朕か訓に遵ひて此道を守り行ひ国に報ゆるの務を尽さは日本国の蒼生挙りて之を悦ひなん朕一人の懌のみならんや

明治十五年一月四日

御名 御璽
 
  • Tags
    1882 imperial rescript to soldiers and sailors emperor meiji rescript to soldiers and sailors 軍人勅諭
  • Top